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スピード違反事故で「過失運転致死→危険運転致死に」相次ぐ遺族の要請 ”訴因変更”が認められる要件とは
2024年10月17日 11時13分
#飲酒運転 #死亡事故 #訴因変更 #危険運転致死

2023年2月に宇都宮市で発生した交通死亡事故で、宇都宮地検は今年10月10日、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)罪で起訴した男性について、より刑が重い危険運転致死罪に訴因変更するように宇都宮地裁に請求したと発表した。

朝日新聞デジタルの記事によると、被告が運転する車は事故当時、時速161〜162キロの速度が出ていたといい、被害者のバイクに追突して相手を死なせたとされる。

宇都宮地検は2023年3月に過失運転致死罪で男性を起訴。同年4月から裁判が始まったが、途中で遺族が危険運転致死罪への訴因変更申請を宇都宮地検に要請し、公判が中断していたという。

宇都宮地検はその後の補充捜査を経て、危険運転致死罪の要件を満たすと判断したとみられる。訴因変更が認められた場合、裁判員裁判で審理される見通しだという。

こうした訴因変更は、大分市で2021年2月に起きた死亡事故で認められている。報道によると、この時も大分地検は当初、過失運転致死罪で在宅起訴したが、遺族が訴因変更を求めたことから、補充捜査をして危険運転致死罪への訴因変更を請求し、大分地裁に認められたという。

今年5月に群馬県伊勢崎市で発生した家族3人死亡事故でも、前橋地裁が10月15日に危険運転致死傷への訴因変更を認めた。

検察は起訴する前の段階で入念に準備して訴因を決めているはずだが、なぜ起訴後に訴因の変更を請求することがあるのだろうか。元検察官の荒木樹弁護士に聞いた。

2023年2月に宇都宮市で発生した交通死亡事故で、宇都宮地検は今年10月10日、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)罪で起訴した男性について、より刑が重い危険運転致死罪に訴因変更するように宇都宮地裁に請求したと発表した。

朝日新聞デジタルの記事によると、被告が運転する車は事故当時、時速161〜162キロの速度が出ていたといい、被害者のバイクに追突して相手を死なせたとされる。

宇都宮地検は2023年3月に過失運転致死罪で男性を起訴。同年4月から裁判が始まったが、途中で遺族が危険運転致死罪への訴因変更申請を宇都宮地検に要請し、公判が中断していたという。

宇都宮地検はその後の補充捜査を経て、危険運転致死罪の要件を満たすと判断したとみられる。訴因変更が認められた場合、裁判員裁判で審理される見通しだという。

こうした訴因変更は、大分市で2021年2月に起きた死亡事故で認められている。報道によると、この時も大分地検は当初、過失運転致死罪で在宅起訴したが、遺族が訴因変更を求めたことから、補充捜査をして危険運転致死罪への訴因変更を請求し、大分地裁に認められたという。

今年5月に群馬県伊勢崎市で発生した家族3人死亡事故でも、前橋地裁が10月15日に危険運転致死傷への訴因変更を認めた。

検察は起訴する前の段階で入念に準備して訴因を決めているはずだが、なぜ起訴後に訴因の変更を請求することがあるのだろうか。元検察官の荒木樹弁護士に聞いた。

●起訴後に新証拠が出てくることで訴因変更

訴因とは、刑事訴訟、刑事裁判において審判の対象となる事実で、日時や場所、方法によって特定された犯罪の具体的事実をいいます。

訴因変更とは、刑事裁判の係属中に、起訴状に記載された訴因または罰条を、追加・撤回・変更することをいいます。

訴因変更は刑事裁判では日常的に行われています。交通事故の裁判で「全治20日」から「全治3カ月」に伸びた場合などが典型です。

そのほか、窃盗事件で被害の変更する場合や、通常の窃盗罪から常習累犯窃盗罪への変更も、訴因変更の例としてはよくあります。

いずれも、起訴後に診断書や被害届などの新たな証拠が出てくることにより行われます。

画像タイトル 写真はイメージ(PicStyle / PIXTA)

●過失運転致死罪→危険運転致死罪への変更は多くない

ただ、今回のように過失運転致死罪から危険運転致死罪への変更例はさほど多くありません。

例えば類似の例として、傷害致死罪から殺人罪の訴因変更があります。理論的には訴因変更は可能ですが、実務的にはほぼ皆無と思います。

殺人罪と傷害致死罪の違いは殺意の有無です。捜査段階で、殺意の有無は最も重要事項として徹底的な捜査が行われ、起訴の時点で殺意の立証は難しいと判断した結果、傷害致死として起訴しているのです。

その後の公判審理の結果で、殺意があると認める新たな証拠が出ることはまずありえません。被告人が積極的に不利益な供述をするような例外的な場合以外、考えにくいのです。

●高速運転による危険運転致死罪、具体的な速度の規定なく

今回は遺族の要望がきっかけではありますが、補充捜査の結果、過失運転致死から危険運転致死に訴因変更したとされていますので、何らかの新証拠を得たと思われます。

この事故は時速161~162キロメートルの自動車がバイクに追突して、バイクの運転手が死亡した事故です。

もともと、高速運転の危険運転致死罪は、「進行を制御することが困難な高速度」での事故が要件とされているだけで、具体的な速度は定められていません。

進行を制御することが困難な高速度とは、道路の状況によって異なるものです。

私の検事時代の経験でも、市街地の交差点を時速40キロで左折し対向車線にはみ出した事故を、危険運転で起訴したことがあります。

これは、鑑定結果から現場交差点での限界走行速度が時速30キロメートル以下であったことが立証できたからです。

●遺族の要望が全て反映されるわけではない

このように高速度でカーブを曲がりきれない場合については、「進行を制御することが困難な高速度」の立証手法が確立しているのに対し、直線道路の場合には具体的な立証手法が明確ではないため、危険運転での起訴を躊躇するケースが多いのです。

今回、補充捜査によりおそらく何らかの鑑定ないし実験結果から「進行を制御することが困難な高速度」の立証が可能であると判断したと思われます。

常識的に、時速160キロを超えるような速度であれば「進行を制御することが困難ではないか」と見えるような気がしますが、刑事裁判の立証はそのような曖昧なものではありません。

これまでの実務は、「この事故現場の曲線半径と、摩擦係数から、限界走行速度は時速〇〇キロメートルである」との物理的な鑑定結果をもとに厳格な立証をしていました。

今回も従前の観点とは異なる視点からの厳格な立証を目指していると思われます。

ですので、遺族の要望がきっかけであったとはいえ、すべての事件において遺族の要望が反映されるというものではないと思います。

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