子どもを欲しくないと考えている妻と、意見の相違として離婚できるのでしょうか。20代夫婦の夫からの相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者の男性は子どもが欲しいと考えています。結婚前は妻も「急がないが、いずれは欲しい」という認識で一致していたのが、些細なケンカをきっかけとして「あなたの子どもは欲しくない」と言い続けているそうです。
また、妊娠に影響を及ぼす病気が見つかった妻は、多忙を理由に治療を拒否しているといいます。
相談者は、子どもに関する意向の違いを理由として離婚できるのかと悩んでいます。意見の相違は離婚事由になるのでしょうか、大西信幸弁護士に聞きました。
●法律で定められた離婚できる理由とは
——「子どもが欲しい・欲しくない」という意見の相違は離婚事由になるでしょうか。
夫婦が合意すれば、「子どもが欲しい・欲しくない」といった価値観の違いを理由に離婚することは可能です。
しかし、当事者間で離婚の合意が得られず、調停が不成立となって訴訟に発展した場合には、民法770条に定められた法定離婚事由に該当するかどうかが審理の対象となります。
民法770条1項では、以下のような離婚原因が規定されています。
第1号:不貞行為
第2号:悪意の遺棄
第3号:3年以上の生死不明
第4号:回復の見込みがない強度の精神病
第5号:婚姻を継続し難い重大な事由
このうち、「子どもが欲しいかどうか」という意見の対立は、第5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかが争点となります。
●「子どもがほしい・ほしくない」の意見の相違は離婚事由になるか
子どもを持つかどうかは、夫婦の人生設計において根幹に関わる重要なテーマです。
この点で夫婦間に価値観の相違があり、その対立が深刻で夫婦関係が修復困難な状態に至っている場合は、「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するとして、離婚が認められる可能性があります。
裁判所は、単なる「意見の食い違い」だけを理由に離婚を認めることはありません。
しかし、その不一致により信頼関係が崩壊し、セックスレス、モラルハラスメント、相当期間の別居など、他の事情も加味された結果、客観的に婚姻関係が破綻していると認められる場合には、離婚が認容されることもあります。
●ポイントは「価値観の不一致」の夫婦関係への影響度
——子どもが欲しいことを前提に結婚したのに、後から意見が変わった場合はどうでしょうか
結婚当初、「いずれは子どもを持ちたい」という認識を夫婦で共有していたにもかかわらず、結婚後に「やっぱり子どもはいらない」と態度を変えるケースは珍しくありません。
このような意見の変化そのものが、ただちに離婚事由となるわけではありません。
とはいえ、婚姻の基盤となる重要な価値観の変更によって夫婦関係が深刻に悪化している場合には、離婚が認められる方向に作用することがあります。
ポイントは、「その価値観の不一致が、夫婦関係にどれほど重大な影響を及ぼしているか」にあります。
——相談者の妻には妊娠に影響を及ぼす病気があるそうです
病気そのものは、当事者の責任によるものではないため、それだけを理由に一方的な離婚が認められることは基本的にありません。
ただし、病気に対して治療に向き合う姿勢がまったく見られず、また夫婦としての将来設計を共有しようという意思も感じられないような場合には、「夫婦の協力義務」(民法752条)に違反していると評価される余地があります。
つまり、問題は病気の有無ではなく、病気にどう向き合っているか、また夫婦としての対話や協力がどのように行われているかが、裁判所の判断に影響を及ぼす可能性があるということです。
●弁護士が実務上の経験から感じること
離婚訴訟において最も重視されるのは、婚姻関係が客観的に破綻しているかどうかです。
一時的な感情のもつれによる対立なのか、それとも本当に修復が不可能な状態に至っているのか。裁判所はその点を総合的に判断します。
今回のように、「子どもを持つか否か」といった将来設計の根幹に関わる価値観の対立がある場合には、婚姻関係の破綻が認定される可能性があります。
もっとも、夫婦がまだ若く、十分な対話の機会を持てていない場合には、「関係修復の余地があるのではないか」と判断されることもあり得ます。
そのため、訴訟に進む前に、配偶者が本当に何を求めているのかをお互いに真剣に見つめ直し、率直に対話する姿勢を持つことが重要です。
さらに、夫婦カウンセリングなど第三者を交えた冷静な話し合いの場を設けることも、有効な選択肢の一つとして検討すべきでしょう。