この事例の依頼主
20代 女性
ご相談者のA子さんは、早朝、自転車で駅に向かう途中、信号機のある交差点を青信号に従って横断しているときに、突然交差点に赤信号で侵入してきたトラックに衝突され、意識不明のまま病院に救急搬送されました。その後、A子さんは、入通院を経て、事故から約1年半後に症状固定の診断を受けました。ところで、本件では、加害車両の運転手も自分は青信号に従って進行していたと主張し、事故状況に関する双方の言い分が真っ向から食い違っていました。そのような状況の中で、A子さんから加害者に対する損害賠償請求に関して依頼を受けました。
A子さんの症状固定後、A子さんには、頭部の傷口の痒み、痛みや指の痺れが残ったので、後遺障害等級認定の申請の準備をしていたところ、加害者(加害車両の運行供用者及び運転者)より債務不存在確認請求訴訟が提起されました。加害者側の言い分は、A子さんは赤信号で交差点を横断していて事故に遭ったので、加害車両の運転者の過失割合は2割にとどまり、それまでにA子さんの治療費などのために任意保険会社が病院に支払った既払い金が250万円を超えるので、過失割合に照らせば、これ以上加害者側が支払うべきものはないというものでした。その後、A子さんは、併合14級の後遺障害等級認定を受け、そのことを前提に、加害車両の運行供用者に対しては自賠法3条に基づき、加害車両の運転者に対しては民法709条に基づき損害賠償請求の反訴(請求金額約500万円)を提起しました。訴訟では、やはり事故状況について、どちらが赤信号であったのかが徹底的に争われました。その後、裁判所から和解の試みがなされましたが、担当裁判官からは、本件では目撃者もなく、裁判所としては真偽不明(どちらが赤信号であったかが証拠上明らかにならない)であるとの心証が開示されました。そして、自賠法3条の立証責任の観点から運行供用者の過失相殺の主張は認められないとの前提で、裁判所から、反訴被告(相手方)が反訴原告(当方)に対し、和解金350万円を支払うとの内容の和解案が提示されました。そして、最終的には、双方がその和解案を呑んで決着しました。
最終的にどちらが赤信号であったのかが真偽不明となり、自賠法3条の立証責任の所在によって解決が図られた比較的珍しい事案です。民法709条の不法行為責任だけを主張していた場合は、当方(反訴原告側)の請求が認められないとの結論になっていたと思われます。